2013年4月24日水曜日

問題小説:鏡さん、この世で一番きれいなのは誰 P9

「このオバサン頭いかれてんじゃないの」
 森川由美はこの言葉を聞いてキレた。
「私は森川由美よ」
 由美は大声でこう言った。この言葉にひれ伏すと思ったのだ。
だが、
「森川由美って誰」
 と二人は言葉を返した。
「あなた知っている」
「知らないよ」
 二人は顔を見合わせて、
「やっぱりこの人頭イカレているよ」
 と若い女は男の手を取って去っていった。
森川由美の名前は忘れ去られていたのだ。
由美は言いようの無い虚無感に襲われた。
「人生とはこんなに虚しいものなのか」
 気がついたら公園で浴びるほどウイスキーを飲んでいた。

問題小説:鏡よ、この世でいちばんきれいなのは誰 P8

由美は高校生の頃密かに好きだった男性が奥さんに先立たれた事を耳にした。
「あの人は高校生の頃私に好意を示してくれていた。『今でも君が好きだよ』こう言ってくれるかも」
 大いなる期待を持って由美はこの男性に近づいた。
だが、現実は厳しかった。
「どちらさんでしたっけ」
 とけげんそうな顔をして由美を見る。
「森川由美ですよ」
 こう言っても、
「どっかで接点がありましたっけ」
 と言うばかりである。
押し問答していると、
「私の彼氏をいじめないで」
 と三十歳くらいの女性が由美にこう言った。
由美は笑いながら、
「娘さん」 
 と言葉をかけるとこの若い女性は、
「彼女ですよ」
 と平然という。
そして、
「おばさん、帰ってよ」
 と語気を荒げた。